アナエロビックとは|コーヒーの生産処理について ③
豆知識
2026.05.04

私たちが「コーヒー豆」と呼んでいるものは、アカネ科の植物“コーヒーノキ”の果実(コーヒーチェリー)の中にある種子(胚乳)を乾燥させた「生豆(なままめ)」を焙煎したものです。
コーヒー生産者の主な仕事は、コーヒーノキを育てて果実を収穫し、生豆の状態に加工すること。この生豆へ加工するためのやり方を「生産処理」や「プロセス」と呼びます。
伝統的な生産処理には主に3種類の方法(ウォッシュトプロセス/ナチュラルプロセス/ハニープロセス)がありますが、今回はその枠組みに収まらない「アナエロビックプロセス(嫌気性発酵)」について解説したいと思います。
【目次】
- コーヒーの生産処理と発酵
- アナエロビックプロセスとは
- アナエロビックプロセスの味わい
- さまざまな生産処理
- まとめ
コーヒーの生産処理と発酵
コーヒーには、発酵によって生まれる風味があります。
ナチュラルやハニープロセスでは乾燥工程中に、ウォッシュトプロセスでは水に浸けている工程中に発酵が起きますが、伝統的な生産処理方法で起きる発酵は、すべて好気性の発酵でした。
好気性とは酸素のある環境という意味で、この環境で活動する酵母による発酵が、これまでのコーヒーで起きていた発酵です。
これを嫌気性、つまり酸素のない環境で発酵させたものが、嫌気性発酵です。
好気性との違いは発酵にかかわる酵母の種類で、酵母が違うために副産物が変わり、風味が変わるというのが嫌気性発酵の目的です。
アナエロビックプロセスとは
嫌気性発酵プロセスはコーヒーが発祥ではありません。
ワインのボジョレーヌーボーが嫌気性発酵プロセス(カーボニックマセレーション)で作られており、これをコーヒーでも導入したのが始まりです。
タンクにコーヒーチェリー、または果肉を除去したパーチメントを入れ、必要であれば酵母を投入して密閉し、酸素を抜くと嫌気性の発酵が起きます。
そのため、このプロセスをするためには密閉できるタンクと酸素を抜くための機器が必要です。
また、密閉するため発酵の管理が難しく、モニタリングするにも工夫が必要です。
そのため伝統的な生産処理に比べて設備コストと管理コストが増えますが、うまくいくと伝統的な生産処理では作れない風味のコーヒーが作れるというのが嫌気性発酵プロセスの魅力です。

密閉タンク内で発酵を管理するためのバルブと圧力計。
アナエロビックプロセスの味わい
発酵させる状態(チェリーの状態なのか、果肉を除去した状態なのか)によっても変わりますが、全体的には濃いめのフルーティーな風味や、お酒に近い風味のものが傾向としては多いです。

タンク内に投入されたコーヒーチェリー。
特に発酵させる時間が長かったり、発酵を組み合わせたりしていると、ウイスキーやブランデーのような風味がするものもあります。
アナエロビックプロセスのコーヒーは、ぜひ風味の表現にも注目してみてください。
さまざまな生産処理
アナエロビックプロセスに代表されるように、他業種の技術を導入することによって、コーヒーのイノベーションを起こしていく動きがここ数年で活発になっています。
ベースとなる考え方としては、発酵をコントロールすることで風味をコントロールする、ということになるでしょうか。
結果として、従来の枠にとらわれない生産処理が散見されるようになってきました。
- 酵母の添加(好気性でも嫌気性でも可能)
例)ワイン酵母やシャンパン酵母、イーストを使って発酵させる - 酸素を抜くために、ほかの気体をタンクに充填する
例)二酸化炭素(カーボニックマセレーション)、窒素など - 複数の発酵を組み合わせる
例)アルケミープロセス…好気性発酵と嫌気性発酵を、ひとつのロットの生産処理で組み合わせる - 温度差を使う
高い(といっても50℃程度)温度で発酵を進めたのち冷やすことで生豆組織を収縮させ、発生した成分を生豆に閉じ込める(サーマルショック) - 発酵槽にコーヒー(と水)以外の材料を加えて香りを添加する
例)果物の果肉や果汁などを加える(インフュージョン)
といったところです。
まとめ
これらさまざまな新しい考え方を取り入れる生産者があらわれたことで、コーヒーの生産処理はかなり複雑化しています。
猿田彦珈琲では商品名に入れる生産処理名称については基本的にはウォッシュト、ハニー(パルプトナチュラル)、ナチュラル、アナエロビックとしています。
そのうえでプロセスの詳細をコーヒーの情報欄で詳しく解説していますので、ぜひあわせてご確認ください。
Text:村澤 智之(猿田彦珈琲)
【シリーズ:コーヒーの生産処理について】
- ウォッシュトプロセスとは
- ナチュラルプロセスとは
- アナエロビックとは(本記事)
- ハニープロセスとは(近日公開)



